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2019/01/10

なぜ、わが子を棄てるのか「赤ちゃんポスト」10年の真実

なぜ、わが子を棄てるのか

「赤ちゃんポスト」10年の真実
 
            著:NHK取材班
 
 
日本で唯一、罪に問われず子どもを棄てる事のできる場所がある。
熊本慈恵病院が運営する「こうのとりのゆりかご」通称「赤ちゃんポスト」は2007年5月10日に設置された。
「匿名」で預けることのできる「こうのとりのゆりかご」には、設置されてからの10年間で130人の子ども達が託された。
 
匿名であるがゆえに、安易な子棄てを助長しはしないか。子どもの知る権利が守られないのではないか。
これまでに明らかにされた、リアルケースを読むと、様々な事情により、たった一人、誰にも相談できず苦しみ、追い詰められていく親達の姿が見えてくる。
が、中には「匿名性」を盾に、到底許しがたい身勝手な利用も少なくない。
 
リアルケースの中には、不倫の末、妊娠し、相手の男性からは「いずれは家族と別れ、新しい生活を始めたい」と言われ、授かった命を大切にしていく事を心に決めたが、出産して一年後、女性が不在中に男性が女の子を連れ出し、赤ちゃんポストを利用したというケースがあった。
 
一方で慈恵病院は「匿名」だからこそ救える命があると設置前から一貫して主張している。
 
私はこの立場に賛同したい。
が、様々な問題があるのも事実なようだ。
 
子棄ての助長
「こうのとりのゆりかご」の検証会議において「本当に切羽詰まっているとは思えないものも含まれている」と言及されている。
利用した親の背景について、意外にも経済的に安定した人達が少数ではなかった。
 
母子ともに危険な、孤立出産
医療機関を一度も受診せず、自宅、車中での孤立出産も多く、直後に遠方から預けに来るケースもあるという。中には低体温状態の赤ちゃんもおり、極めて危険な行為が繰り返されている。
 
匿名による、知る権利の剥奪
開設から10年。その間預けられた130人のうち身元が判明したのは104人。
26人は、誰から産まれ、どのような経緯でポストに預けられたのか、将来知りたいと思っても誰にも分からないのだ。
andfamily repo vol.2①andfamily repo vol.2②で取材をさせてもらった、Bさんの話を思い出してしまうが、彼女も養子だと告げられた後、産みの親に会いに行った。
彼女は養子だと知った時、自分が誰なのかと思い悩んだと語ってくれた。
 
託された子の、その後のケア
慈恵病院に預けられた子どもは、その後、児童相談所を通じて、里親、養親、施設などに預けられるが、各方面から自主的に連絡がない限り、病院側は子ども達のその後を知ることはできない。専門家は社会の仕組みが追いついていないと指摘する。
 
親権問題
経済的に育てられないという理由から、ポストに預けたが、その後の話し合いで経済的に安定したら迎えに来る事を決め、乳児院に預けたケースがあった。
が、それから6年、その子どもは今も児童養護施設で暮らしている。
親が「いつか引き取る」と、意思表示さえすれば親権は守られる。
たとえ、赤ちゃんポストを利用した親でもだ。
赤ちゃんポストに預けられた、子どもを里親として育て、3年後、養子縁組を進めようとした矢先、実親が名乗り出てきたケースもある。
海外では同じような場合、一定期間が過ぎると親権を剥奪するという明確なルールがあるが、日本では迎えに来るか分からない実親が親権を持っている事で、子どもが家庭を持つチャンスを逃しているとも言えるのではないだろうか。
過去ブログでも書いたが、生育上重要な時期を家庭的な環境で過ごす権利を親権によって奪われて良いはずはない。
 
その他、まだまだ多くの課題が複雑に絡み合っている問題である事が、本書を通して浮き彫りになっている。
 
妊娠中に然るべき機関に相談ができる環境にあれば、子棄てや、危険な孤立出産に至らずに済むが、それが出来ない環境にある女性たちが確実にいるという事。
そして、その背景には無責任な男たちが隠れている。
妊娠、出産、子育ての当事者は決して一人だけではないはずなのに、当事者として悩み苦しみ、責任を問われ、非難されるのは多くの場合、女性達だ。
「不倫相手にポストへの預け入れを勧められた 」 「夫に出産を拒否された 」 「中絶を迫られた 」 「出産しても認知してくれなかった 」 「妊娠後 、行方不明になった 」 「避妊を拒否された 」
彼女たちをもう一人の当事者が協力もせず、追い詰めてしまうのなら、彼女たちを非難するのではなく、社会が手を差し伸べられないものかと思ってしまう。
そうすることが、何よりも子どもの幸せを担保することに繋がるのではないか。
 
子どもは生まれる場所を選べない。
親から子へ繰り返されることが多いと言われる虐待と貧困。
育てられないなら、託すという選択肢が許されるのなら、全ての子どもに平等に温かな家庭を与える事は、不可能ではないと思いたい。
 
 
 
赤ちゃんポストに預けられ、里親家庭で育った男の子は、名前も年齢も出身地も分からない。預けられた当時、物心がついていた彼は、狭い空間に入れられ、扉が静かに閉まっていく様子を記憶しているという。
「なぜ、僕をポストにいれたんだろう」とずっと寂しかったと話している。
だが今、こうも語る
 
「僕をポストに入れてくれなければ 、お父さんとお母さんに会えなかったと思うし 、この家で生活することもできなかった 。道端に置き去りにするんじゃなくて 、ポストに入れてくれてよかった 」
 
 
 &family..
千田真司